確認不足で痛い目をみた、やらかしおじさん。 急いでいてもしっかり確認しようね。
おじさんは実感した。
おじさんは、実感させられた。 確認の大切さを。
この冬はどうもおかしい。 暑かったり寒かったり、寒かったり暑かったり。 ちょっと冷えるな程度だったかと思えば、これは真冬ですねくらいの寒さになったりする。
これはそんな、ある日のこと。
外出時に今日は暖かいからと少し薄めの恰好をしていたら、母が言った。 寒くなるしもしれないから、腕抜き(腕カバー)を持っておきなさい、と。
確かにそうだと納得し、急いで引き出しから取り出してカバンに突っこみ、出発。
パソコン工房で新しいノートパソコンとかマウスとかキーボードなどを下見して結局買わなかったり、ちょっとペットショップによって犬や猫を見てなごんだりした後、スーパーへ食材の買い出しに。
スーパーに行くまでは大丈夫だったものの、さすがにスーパーの中は寒い。 食料品を売っているのだから、当然のことだ。
入った最初は多少冷える程度で済んでいたが、時間経過とともに寒さはどんどん増していく。 そしてこれはツラいと思ったところで、おじさんはカバンに入っている腕抜きのことを、思い出した。
そうか、そうだった。 腕抜きがあったのだ。 さすが我が母、抜け目のないやつだ。 感謝してやってもいいぞ。
そんなことを思いながら、おじさんがカバンから取り出したのが、
は ら ま き 。
……腹巻き? いや、おかしい。 なぜ腹巻きだ。 腹巻きなのは何故だ?
いや、おかしくない。 何も。 何もおかしくないのだ。 おじさんは、自分で腹巻きをカバンに入れたのだ。
引き出しのなかの同じところに入れてあったソレらは、素材が似ていて、色も同じ。 たたんでしまえば見分けがつかない。
焦ってよく確認せずに取りだしたから、間違えていることに気づかなかったのである。
カバンから取り出したおじさんの口からこぼれた言葉……。
「あ、腹巻きやった……」
それは虚しさと悲しみが混ざり合った、消え入るような一言だった。 例えるなら、今にも消えてしまいそうな命のうえに振りおちた、ひとつぶの雪……。
そんなおじさんの一言は、母の笑いのツボにクリティカルヒットした。
買い物カートに縋りつきながらくつくつと笑う母。 普段は大きな声を出して笑う人なのだが、どうやら声もでないほどに面白かったらしい。 そしてそんな母を見たおじさんも、つられて大爆笑。
スーパーの食材コーナーに、くつくつと笑う怪しげな親子二人組。 おそらく周囲からは好奇の目で見られていたことだろう。
結局その日は寒いまま買い出しを終えて帰宅。 数日間は腕抜き腹巻きネタで母にいじられ続けることになるのであった。